雑記帳から

そのままに書き記して。

Mr.Children『皮膚呼吸』歌詞考察

ミスチルのアルバムは基本、頭から通して聴いていくのがマストなのですが、『重力と呼吸』における締めとなる曲の『皮膚呼吸』の歌詞考察です。

 

重力と呼吸

重力と呼吸

 

 

 

と、ある日
顳需頁(こめかみ)の奥から声がして
「それで満足ですか?」って
尋ねてきた

ある日聴こえてきたこめかみの奥からの声。つまり、周りからの期待の声。「それで満足ですか?」。これは多分、桜井さんやメンバー自身の「まだやってやりたい!」という気持ちとも重なって幻聴として聴こえてきたもののはず。

 

冗談だろう!?
もう試さないでよ
自分探しに夢中でいられるような
子供じゃない

Mr.Children自体がここまで大きくなったことにメンバー自身が現状維持でも十分にやっていけると慢心すること。長いキャリアを積み、日本の音楽シーンを牽引してきたMr.Children。時の流れは残酷で、その当時世間がMr.Childrenに求めていたものと今世間が求めているものが変わってきた。それは当時のMr.Childrenのカタチではなくなってしまった。でもなお「もう一度中心に」と足掻くことが惨めにも思えるから、潔く一線を引くような感覚も無いわけでは無くて。「もういいでしょ?」「やりきったよね」って感じで。

 

生意気だった僕なら
なんて答えてるんだろう?
あぁ世界はあまりにも大きい

これ(こめかみから聴こえてきた声)に対して当時の自分ならきっと「まだやれるまだやれる」って答えてるはずなんだけど、変わりゆくものと今なお自分がそうありたいと思いながらも、丸くなってしまった事のふたつを俯瞰して見比べて。「変わってしまったな」「あぁ世界は大きいなぁ」「どんなことも起こり得るなぁ」って。

 

深呼吸して 空を見上げて 風に吹かれて
いつからか 砂に埋めた感情を
まだ生乾きの後悔を 噛み締める
I'm only dreamin', but I'm only believin'
I can't stop dreamin'
このまま
変わっちまう事など怖がらずに
まだ夢見ていたいのに...

深呼吸してぼんやり考えてみると、いつの間に、悔しかった感情、自分にしか知り得ない、時代の流れでは乾き切る事ない後悔を噛み締めていたことに気づいてしまって。もう一度大きな夢を当時の自分のまま見ていたいとぼんやり思う。

 

高架下は怒鳴り声にも似た音がして
時間(とき)が猛スピードで僕を追い越して行った

  • 高架下をMr.Childrenとしての表舞台(=橋の上)ではなくて、舞台から降りた1人の人間や空間として仮定。
  • 怒鳴り声を若手ミュージシャン達の活躍として仮定(丸くなった自分達とは違い、まだ尖っている人達のという意味で怒鳴り声)。

目紛しい時代の中で若手達がどんどん人気になっていって、Mr.Childrenを取り残して、時代が進んでいった(中心が入れ替わってしまった)。

 

意味もなく走ってた
いつだって必死だったな
昔の僕を恨めしく懐かしくも思う

当時は走り続けることに意味はなかった。なぜならキャリアがないから。でも、今キャリアのある自分たちからすれば、尖っていた頃(=走り続けていた頃)が少し恨めしい(=あの頃と今が比べられてしまうから)し、懐かしい(=昔の事だ)とも思う。

 

でも
皮膚呼吸して 無我夢中で体中に取り入れた
微かな酸素が 今の僕を作ってる そう信じたい
I'm only dreamin', but I'm only believin'
I can't stop dreamin'
このまま
切なさに息が詰まったときが
それを試すとき

  • 冒頭の「でも」にはかなりのメッセージがあると思います。

皮膚呼吸して必死に成長しようとした(=過去の走り続けた自分達→1つ前では恨めしいし懐かしいと思っていました)酸素(=養分)が今の自分へと成長させたと信じたい。恨めしくも「必死だったのは過去の自分たちなのだから」。だからこのまま「夢見て信じ続けたい」と、思うようになった。それを試すのが切なさに息が詰まるとき、つまり目紛しい時代の中で取り残され、悔しい思いをした「今」。

  • つまり、冒頭の「でも」は今まで過去の自分たちに持っていたマイナスの感情を受け入れるようになった大きな転換です。

 

出力が小さな ただただ古いだけのギターの
その音こそ 歪むことない僕の淡く 蒼い 願い
サスティンは不十分で今にも消えそうであっても
僕にしか出せない特別な音がある
きっと きっと

古いギターやドラム、そしてベースの音。昔のMr.Childrenの音こそが自分の微かな(=淡い)、まだ熟すことない(=蒼い)願い。その古いギターのサスティン(=ギターの音の伸び)はあまりなく、すぐに消えそうでも、その古いギター(=Mr.Children)にしか出せない音があるはず。

  • 歪む(ひずむ)はギターの音に対してよく使われる表現です。一方読み替えれば「歪む(ゆがむ)」。願いが歪(ゆが)まないというダブルミーニングです。もちろんここでは表面上古いギターの話なので「ひずむ」と歌っています。
  • sustain(=持続する)という意味で捉えるなら上記青の「その古いギター」をMr.Childrenとして読み替えてみてください。

 

I'm still dreamin'
無我夢中で体中に取り入れた
微かな勇気が 明日の僕を作ってく そう信じたい
I'm still dreamin', I'm still believin'
I can't stop dreamin'
このまま
苦しみに息が詰まったときも
また姿 変えながら
そう今日も
自分を試すとき

最後の歌詞は未来への覚悟です。時間が無情にも過ぎれば、昔の自分が今の自分へと変わってしまったように、今の自分が昔の自分となり、変わってしまうのでしょう。だからこそ「また姿変えながら」も戦い続けたい。

 

 

『重力と呼吸』の絶対王者が『himawari』だとすれば、『皮膚呼吸』は絶対王者の後ろ、かつこのアルバムの締めを飾るからこそ意味のある曲だと思います。

 

重力と呼吸

重力と呼吸